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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(行ツ)191号 判決 1985年3月11日

東京都国分寺市南町二丁目一四番五号

上告人

川本豊子

千葉市千葉寺町四三番地

上告人

川本昇

東京都国分寺市南町二丁目一四番五号

上告人

川本暉夫

東村山市青葉町三丁目三三番二六号

上告人

中川昤子

神奈川県鎌倉市七里ケ浜東三丁目一三号四号

上告人

津村晴子

右五名訴訟代理人弁護士

竹内桃太郎

渡辺修

吉沢貞男

山西克彦

冨田武夫

東京都立川市高松町二丁目二六番一二号

被上告人

立川税務署長 加藤博康

右指定代理人

吉川悌二

右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行コ)第五三号更正処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和五六年八月二七日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人竹内桃太郎、同渡辺修、同吉沢貞男、同山西克彦、同冨田武夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実を前提として原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 木下忠良 裁判官 鹽野宣慶 裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次)

(昭和五六年(行ツ)第一九一号 上告人 川本豊子 外四名)

上告代理人竹内桃太郎、同渡辺修、同吉沢貞男、同山西克彦、同冨田武夫の上告理由

第一点 原判決には判決に影響をおよぼすことが明らかな法令違背がある(国税通則法第三条・民事訴訟法第三九四条)。

一、原判決は「十一会」成立から本件相続開始までの経緯として大筋次のとおり認定している。即ち、同会会員嶋田卓弥ら一一名が昭和二七年五月にリッカーミシンを連袂退社するに際し、共通の理念で結束しつつ右嶋田と会長前田増三を代表者株にして同社と退職条件について交渉し、一一名の退職金並びに同人らの所有していたリッカーミシン関係の株式及び商標権を同社に譲渡する代償として、同社から、各人ごとに区別することなく一括して現金六〇〇万円と月賦代金債権二千五二〇万円、合計三千一二〇万円の譲渡を受けた。そして右一一名は、同月三一日前田増三方に集合し、今後は「十一会」と称して統一的行動をとることを確認し合うとともに、リッカーミシンから取得した右財産を不可分のものとして各個人に分配せず、会員の疾病その他特殊な場合を除くほかは、国産ミシン産業の興隆発展にのみこれを充てるものとすることなどを合意し、その旨を明記した覚え書を作成した。右基本財産は、現金にて取得した六〇〇万円については前田増三名儀で預金し、うち一〇〇万円を出資して「十一会」会員七名を発起人とする月賦集金会社を設立、嶋田と亡川本日出生を共同代表者として、リッカーより譲受けた月賦集金権の回収を行い、回収した代金は順次銀行預金として蓄積した。昭和二八年一月現在の蛇の目ミシン工業(株)から右一一名を招聘したいとの話があり、同社と「十一会」を代表する嶋田卓弥との間において交渉した結果同年二月一一日付で一一名全員が同社に入社し、嶋田が常務取締役、亡日出生が取締役工場長、前田増三が取締役営業部長、高木正一が営業部次長の役職に就いた。そして右蛇の目ミシン集団入社を契機に、同年四月一日右一一名は全員の合意により正式の十一会規約を定めたが、その主たる内容は、<1>「目的」として、日本におけるミシン事業の援助育成とこれを世界的事業に発展興隆せしめること、会員及びその家族に対して福利厚生を行うこと(規約第三条)、<2>「会員」として、前記一一名は原始会員とし各々出資分の定めがあり、会員全員一致の承認があるときは、蛇の目ミシンの役員・社員等又は会の目的達成に必要な学識経験者のうちから新たに会員加入させることができること(同第六ないし八条)、<3>「機関」として、総会は会員全員が出席して毎年一回四月に開催し(同第一四条)、その決議は会員の過半数による(同第一五条)。役員として理事三名以内、監事一名を置き、理事の互選により代表理事一名を選任する(同第一六、一七条)。理事会は会の常務を審査処理する(同第一八条)。<4>「財産」として、会の財産は会員がリッカーミシン退社の際に得たものを一括拠出した財産及びその後の運用によって取得増加した財産を基本財産とし(同第四条)、基本財産は前記会の目的以外に投資・運用・支出してはならない、基本財産およびその果実は、蛇の目株式の取得、会員に対する福利厚生又は事務員等に対する給与等の支払い、理事会において蛇の目ミシン工業の事業発展と重要関連があると認めた事業への投資、その他会の目的達成のため特に全員一致の決議によって支出を認めたとき、のいずれかに該当する場合に限り、これを投資・運用・支出することができる(同第二四条)。<5>「福利厚生」として、会員が失職したときの年金の支給(同第二七ないし三〇条)、会員の疾病・災害に対する見舞金及び死亡弔慰金の支出(同第三一条)、緊急時の貸付(同第三二条)を行う。<6>その他緊急事態に関する定めをおく(同第四二、四四、四五条)などであった。その後一一名は蛇の目ミシンの業務に専念し、次第に同社内における地歩を固め、昭和三六年嶋田が同社の代表取締役に就任する頃には一一名の国産ミシン業界における活躍の場は不動のものとなった。この間基本財産は会員名儀による蛇の目株式の取得、会員に対する貸付け、福利厚生的給付にも充てられたが、当時「十一会」の名を公にすることが憚られる状況にあったため、対外的には蛇の目洋裁学院に対する図書購入費の寄付その他若干の社交的なものを除けば、十一会の名において独立の活動がなされたことはなかった。(十一会の運営についての原判決の判断は第二点に関連するので後に述べる。)

二、1 原判決は以上の事実認定の上に立って「十一会」の社団性について判断し、「十一会」は結成の経緯に照らして前記一一名の同志的結合としての色彩が濃厚であること、会としての活動が十一名の名においてなされたことは少ないこと、会の運営は嶋田・亡日出生・前田の三名が中心となって行い、総会や理事会が正規に開催された形跡はないこと、会員が死亡しても新会員が補充されたことはないこと、規約に出資分の定めがあること、などを理由として「それは、構成員である「一名を超越した存在として独立の社会的活動を営むものというよりは、むしろ、構成員である一一名の個性が極めて濃厚な人的団体であって、その法律上の性格は社団ではなく組合と認めるのが相当である」と認定している。

しかしながら、原判決の挙げる「十一会」の社団性を否定する理由たるべき事実は、いずれもその評価を誤り又は過大に評価したものであって、これら事実を以て「十一会」が単なる民法上の組合であると解することはできない。

2 即ち、「十一会」会員の同志的結合については、確かに十一会の発足が一一名の同志的結合によるものであることは事実であるが、だからといって直ちに社団たり得ない訳ではなく、他に社団としての要件を充足していれば、何ら社団性を否定する論拠とならない。

3 また「十一会」の対外活動であるが、これも「十一会の名において」なされた活動に限定するならば原判決の指摘するとおりである。しかし、少なかったとしても、法律上無視し得る程だったとはとても解されず、例えば原判決の例示する蛇の目洋裁学院への図書購入費の寄付は十一会の名を用いており、金額も当時としては決して小額ではない。また、会員外への見舞金・祝金等の支出や中元・歳暮の贈答は再三再四に及んでおり、これらを「若干の社会的なものを除けば」という表現で法律上無視し得るものと評価した原判決の判断は明らかに誤りである。団体の名を以てする対外活動が例え回数的には少くても存在したことを認定する以上は、それが社団としての活動でなかったことを論証しない限り、論旨不明という外はない。また、「十一会」の名を出さない活動であっても、それが実質的にみて「十一会」の活動であるならばその名前を表に出して行なったか否かは本質的な問題にはならない筈である。上告人は第一審以来これらの実質的な意味での「十一会」の活動を含めて、全ての活動を列挙して主張・立証したが(昭和五四年四月一六日付原告最終準備書面一六頁以下二三頁まで)、原判決は「十一会」の名前で行なった活動以外は、実質的にみて「十一会」の活動といえるか否かについてすら判断を示していないのである。

4 原判決は会の運営について嶋田・川本・前田の三名が専断し、多数決原理で行われていなかった旨認定した如くであるが、仮りに右三名が中心になって会を運営したからといって、そこから直ちに多数決原理の存在を否定するのは余りにも短絡的に過ぎる。規約上多数決が明記され(第一四、一五条)、その拘束力を覆えす事情の説示を欠く原判決の論旨よりすれば、会の運営が右三名を中心に行われていたということは、何ら「十一会」の社団性と係りない事実というべきである。

5 会員の不補充についても、原判決は結果と原則とを混同して、誤った判断に陥っている。規約によれば「十一会」は原始会員と加入会員とで組織されるのであって(第六ないし七条)、会員の順次交替による会の永続性が予定されている。原審口頭弁論終結時までは、主として蛇の目ミシンの社内事情から(前記最終準備書面一三~一四頁)、偶々会員の補充はなされなかったが、この件は古くから総会その他で論議された問題であり、現実にも昭和五-六年九月一九日の臨時総会に於て六名の新入会員を補充しているのである(これらの点につき、上告人は原審にて立証追加のため、弁論再開を申立てたが容れられなかった)。

6 規約に書かれた出資分の記載については、その法律上の意味合いに関して原判決では明確に論じていない。「十一会」の性格は民法上の組合であるとする原判決の立場に立つならば、会員の「十一会」財産に対する持分ということになる筈であるが、「十一会」の財産の殆んど全ては蛇の目ミシンの株式であり、一〇〇分の五の出資分とされる小瀬与作や、一〇〇分の五・五とされる阿部久明らは未だかつて一度も株式名義人になったことがなく、且つ株式名義人であった会員にしてもその名義株数は出資分の比率と全然合致していない。かかる事象は原判決の考え方では理解できないところである。

また、規約によれば「十一会」の基本財産及びその果実は会の目的遂行のためにのみ用いることができ、会員に分配してはならない(第五条)、会が解散するときは、残余財産は総会の決議により適当とする公益事業に寄付する(第三九条)、と定められており、これらは出資分の定めに対する原判決の解釈とは正面から衝突するのであるが、規約第五条・第三九条が空文に過ぎないと解すべき理由は原判決の認定中どこにも見当らないのである。

三、以上のとおり、原判決が「十一会」の社団性を否定する論拠とするところは、いずれその法律上の評価・判断に過誤がある。「十一会」の現実の姿を直視するならば、原判決も事実認定の中で述べるとおり、綱領ともいうべき覚え書(甲第一号証)にて創立の基本を明定し、さらに詳細な規約(甲第二号証)を定めて、会の議決機関として多数決原理に立つ総会を、執行機関として理事会および理事を、監査機関として監事をそれぞれ置き、会員は原始会員と加入会員に分けてはいいるが、加入脱退に関する手続を定めて会員の順次交替による会の存続を予定しているのであり、加えて対外活動についても「十一会」の名前を表面に出したものも少ないながら厳然として存在し、「十一会」の名前を出さない実質的な意味での活動を加えれば社会的に独立の活動を営む社団として十分に認め得べきものである。

第二点 原判決は判決に影響をおよぼすことが明らかな理由不備がある(国税通則法第三条・民事訴訟法第三九五条一項六号)。

一、原判決は「十一会」の社団性を否定する論拠の一つの柱として「十一会」の運営に関し、総会や理事会が正規に開催された形跡はないと断じている。しかしながらこれは誠拠に基づかずして事実を認定したものであって、単なる証拠の取捨選択の問題に止まらず理由不備の違法を犯すものである。

二、原判決に引用されている証拠の中に「十一会」の総会や理事会が正規に開催されたことがないとの証拠は全く存しない。却って、総会が毎年少くとも一回開かれていたことは全ての証人が口をそろえて述べているのであって、これを覆えすような証拠は何一つ見当らないのである。総会につき第一審、第二審を通じて問題になったのは、総会が開かれていたかどうかではなく開催されていたことを前提として、その議事録がどうなっていたのか、決算報告がどのような形で行われていたのか、ということであった。理事会についてもほぼ同様であって、年二ないし三回開かれていたことは当然の前提とされ、その議事録の体裁などが論じられていた。総会・理事会の不存在を認定する原判決には、理由中にその事実認定の基礎となった証拠が摘示されておらず、理由不備は明白である。

第三点 原判決には判決に影響をおよぼすことが明らかな審理不尽がある(民事訴訟法第三九四条、民法第六六八条、六七九条、六八一条)。

一、原判決は「十一会」は社団ではなく、民法上の組合であると認定した。然らば、本件係争の蛇の目株式三五万八四〇〇株については組合員全員の共有に帰すべきものであるところ、これが何時いかなる理由により亡日出生個人の所有に帰したのかにつき審理が尽されたとは到底いえないのである。

二、1 亡日出生名義の蛇の目ミシン株式の取得は昭和三〇年一〇月一〇日嶋田名義・前田名義・高木名義の各蛇の目株式と共に行われ、その株数は一万株であった。その後翌三一年に倍額増資があり、翌々年には七、〇〇〇株の買入れがあった。本件蛇の目株式三五万八、四〇〇株は右株式が増資の繰り返しで昭和三八年一二月の本件相続開始時点までの間に増加したものの一部である。以上の点については原判決も認めているところである。

2 ところで原判決は右の蛇の目株式取得に際し、「十一会」が資金を出したか否か疑わしいとするが、それならば当時「十一会」以外に本人が資金を出し得る事情にあったのかどうか審理を尽すべきである。即ちリッカーミシンを退社するに当ってリッカーから得た退職金等は一括して分配しないこととしたこと、リッカー退社後蛇の目ミシンに入社するまでの間は「十一会」の会員はミシン月賦債権の集金の他には仕事をせず収入の途はなかったこと、前記の蛇の目株式の買入れ、増資新株の引き受けは「十一会」の複数の会員が時期を一にして行っていること、株式取得の為の資金は当時としては相当の額に達したであろうこと、等々の原判決の認定事実の下で、直ちに亡日出生が個人として自己の出資で右株式を買い入れたとは通常解し得ないから、若し強いてそのように解するのであれば、その理由ないし経過につき当然明らかにしなければならないのが道理である。しかるに原判決においてはこの点を全く審理していない。

3 また、原判決は右株式の購入が仮りに十一会の資金によって行われたとしても、「十一会」における財産保有名儀人に関する規約違反があること、個人の株との区分が管理上明確でなかったことなどを理由として、その株式を会員個人の所有に帰せしめることも有り様ないことではないと判示している。しかしながら、そのような蓋然性が仮りにあるとしても、蓋然性はあくまで蓋然性であるから、現実がそのとおりであったかどうかは審理を尽してみなければ判らないことである。本件ではまさに株式の帰属が唯一最大の争点なのであるからこの点を審理せぜして蓋然性を事実に置きかえることは許されないところである。

4 本件株式を「十一会」の組合財産とするならば、亡日出生の死亡により持分の払戻が行われ、それによって始めて相続財産に含まれる財産の範囲が確定することになる(民法第六七九条、六八一条)。従って、本件係争の蛇の目ミシン株式三五万八、四〇〇株が亡日出生の名義であったとしても、もともと「十一会」会員全員の共有なのであるから、直ちにその株式がそのまま亡日出生の相続財産となることはなく、この点の詳細についても審理を尽さなければ、本件更正処分が正当であったか否か明確にならない筈である。 以上

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